思いだしながら書く。
その日は妻の出産予定日だった。
世の中はCOVID-19の自粛期間で、私も在宅勤務を4月から行っている。
妻はいつものようにゆっくりと起床した。
お腹も随分と大きくなり、まるでお腹に達磨か鞠にでもなってしまったような張りだった。
今考えてもこの中に人間が入っていると考えると、恐ろしく、そして物凄い事だと思う。
子供が大きくなっているからか、動くからか、時々圧迫されて「イタタ……」と顔をゆがめている。
いつの頃からか、妻はお腹を触り、なでるのが癖になっていた。
お腹を眺めながら触るときもあれば、テレビやPCをいじりながらなでる時もある。
本当にこうやって撫でるものなのか。と感心していたほどであった。
そして妻はよくお腹に向けて色々なことを話しかけていた。
こうやってお腹の成長とともに母性というのは育まれていくのかもしれない。
結局、予定日に陣痛が来ることはなかった。
それ以前にも妻に陣痛が来ることはなく、腰や足が痛むことがあるだけだった。
それ故、テレビなどである”陣痛で突然痛がる表現”と、”陣痛が来たけど何事もなく自宅で待機した”というものが本当にあるのかわからない。
きっと経験者からしたら、「それがなかったなんてラッキーだ」と思われるのかもしれない。
いずれにせよ、私たちは膨らんだお腹に向かい「予定日だよ。早く出てきて顔を見せてね」と声をかけてベッドに入った。